Oyado Onn Yudaonsen
Oyado Onn Yudaonsen
お宿Onn 湯田温泉
- Category: Shared Space
- Date: July, 2022
- Location: Yuda,Yamaguchi
- Web: https://www.onn-yudaonsen.com/
- Photographer: Masao Nishikawa
湯田温泉は、長州藩のお膝元だったこともあり、明治維新の志士たちも集った歴史ある温泉地だ。県庁所在地から近く交通の便も良いために発展は少々早く、昭和の初めには千人が入れるという「千人風呂」や動物園まで備えた施設があったという。
一方でバブル崩壊後はこうした団体旅行は減少し、温泉(旅行)の楽しみ方は変わりつつある。昭和的な大人数のエンターテインメントではなく、自然環境や温泉情緒を楽しむ個人旅行への変化である。
私たちのプロジェクトは、こうした状況を引き受けた「温泉街と温泉旅行のリデザイン」である。かつての湯治が病の治療が主だったのに対して、昨今の温泉に求められるのは心の癒し(治療とまで言えないが)と見ることもでき、新しい流れであると同時に古くからあった感性の再生とも言える。私たちはこうした視点に立ち、昭和的なエンターテインメントとは真逆の、「できる限り要素を削ぎ落とし、視覚情報を減らし、静かで落ち着いた」宿泊施設のあり方を模索した。
最も苦心したのは、湯田が市街地的な温泉地であるのに対し、上記のようなコンセプトをどう実現するかということだ。車道と駐車場が散見される街並みに対して、いかにも和風な意匠を凝らすことには違和感がある。そこで私たちは、雁行した形態・コンクリートで作った各階の庇・普通型枠で打った荒い壁面などにより、現代的でありながら旅館の雰囲気を感じられるデザインを行い、空の広い街中に存在感のあるボリュームを立ち上げた。
車だらけの周辺環境から距離を取りたい一階は、レイヤー状に回廊・塀・植栽を構成し、周囲から適度に切り離された落ち着いた空間とした。一方で天井や床の仕上げの切り替えは、庭から客室まで境界を跨ぐように配し、奥へ奥へと緩やかに誘われるように、設計している。
内装においても、素材は要素をしぼって簡素につくることを目指し、ロビーはグレーの階調を多段階に使い分けたモノトーンの世界として庭を引き立たせると共に、客室には木毛セメント板をシルバー塗装したものを用いている。ベッドは畳の小上がりとし、温泉旅館的な居心地も持たせた。
新しくも本質的な温泉旅行のスタイルへの変化に合わせ、温泉宿泊施設のデザインも(もちろん企画やオペレーションも)また、大きな変化を求められている。こうした中で、地域に対して建築家ができることは少なくない。すでにこのホテルは運営が開始されているが、早速多くの来客で賑わっている。